アテネのペテン師
From: tomosakata
Date: Tue, 12 Dec 1995 12:27:53 GMT


  こんにちは。カナダに住んでいる者です。読み逃してしまったのです
 が、以前「ギリシャへ行く」と書いてた方がおられましたよね。そこで、
 これはよくある出来事なのでしょうが、アテネで2年前にペテンに遭っ
 たバカな私の体験談を書かせてください。たいへん長くなって恐縮です
 が、記録として旅行者の役に立つかもしれませんから (^_^)。

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  アテネは、パルテノン神殿と国立博物館以外に見るところはなにもあ
 りませんが、ホテル代も物価も安くて居心地がいいので、僕と友だちは
 かなり長い間滞在していました。

  ある日僕が一人でシンタグマ広場を歩いていると、横に並んだギリシ
 ャ人のお兄さんに時間を尋ねられました。4時だよ、と時計を見せてい
 うと、「あれ? 日本人なの?」と彼はにっこり。「僕は船乗りでね、
 日本へは何度も行ったことがあるんだよ。いやー、なつかしいなあ。日
 本語でサンキューはなんていうんだっけ、そうそう、『ありがとう』だ
 ね、なつかしいなあ!」、と彼は一人で盛り上がり始めてしまいました。

  面白いけどわずらわしいので (笑)、「じゃ、ま、そういうことで」
 と行こうとすると、「お茶でも飲まないかい」と聞いてきました。いや
 急いでるんだよ、というと、「なにに急いでるの?」。たまたま電話局
 へ行く途中だったのでそう告げると「じゃ僕はヒマだから一緒に行って
 君を待ってるよ」とニコニコしています。いや、悪いからいいよと言っ
 ても、「ぜんぜん悪くない、日本人と会えてうれしいだけなんだから、
 一緒にコーヒーでも飲もうよ」と引きません。とにかく用事を済ませな
 きゃならないので、話しながら歩いているうちに、電話局についてしま
 いました。

  電話局で用を足している間、彼はなにかと教えてくれたりして助けて
 くれました。もうこうなると、なんとなくここでお別れともいいにくい
 日本人 (笑)。それじゃ、コーヒー1杯だけね、もう暗くなってきたし
 と僕が言うと、「やった、じゃあ行こう」と彼は大喜びで先に立って歩
 きはじめました。

  なんやかやと話しながら歩いているうちに、シンタグマ広場からひと
 つ裏道に入りました。遠くへ行くのはなんとなくまずいなと思い、「あ
 まり遠くは行きたくないな」と僕がいう間もなく、「ここだよ」と店に
 ついてしまいました。彼がドアを開けて中へ入ると、そこはバー。とん
 まな僕は、そこでようやく、ことのやばさに気がついたのでした。

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  カウンターに座るなり僕たち二人の両脇に女性がつきます。やられた。
 「なにか注文していい?」と聞かれ、「だめだ」と言っても彼女達はど
 んどん酒を注文します。僕は大慌てでコーラを1杯ぐいっと飲み、「そ
 れでは帰ります」と宣言しました。出てきた伝票は、日本円にして約
 1万円。

 「マン、だましてくれたね」。そういって連れてきた彼をにらみつける
 と、「ノーノー、僕はなにも知らないよ」ととぼけます。「コーラ1杯
 に、こんなに払えない」と拒否すると、たちまち回りを人に囲まれてし
 まいました。店主らしき男が静かな声で、「払えないならパスポートと
 トラベラーズチェックを置いていけ」と脅します。それを取られてしま
 っては、一巻の終わり。仕方なくお金を置き、「君には失望させられた
 よ」と僕をだましたそのペテン師に言い捨てて、店を出たのです。

  ホテルに向かって道を歩きながら、あまりの悔しさに全身から力が抜
 け、座り込んでしまいそうになりました。ホテルにつき、友人に一部始
 終を話すと、警察へ行くべきだわと言われました。泣き寝入りしたら、一
 生悔やむだろうと。めんどくささに気が遠くなりましたが、たしかに泣
 きたいほど悔しいし、これを放っておいては同じ目に遭う日本人が増え
 るばかりだ。ホテルのおじさんに場所を聞き、重たい脚を引きずって、
 僕は一人で警察へ向かいました。

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  警察へついて用件を述べると、英語ができる者が今いないといわれ、
 長い間待たされました。誰もがカタコト英語は喋るので、僕がだまされ
 たことは通じていたのですが、「いくらだ? ○○ドラクマ? そんな
 の、日本人にはたいした金額じゃないだろう」などとふざけたことを言
 われるだけ。「金の問題じゃない、旅行者の安全の問題だ!」と言い返
 しながら、ひたすら待っていると、ようやく少しだけ英語のできる警官
 が現われました。

  ところが彼もそれしきの事件に関わり合うのがいやだという態度で、
 「『ツーリストポリス』に電話してそちらへ行ったほうがいい」と言い
 ます。ギリシャ名物の、旅行者トラブル専門警察です。そこで電話を借
 りてツーリストポリスにかけると、「まずそのバーへ行って、バーの名
 前と番地を調べて来い」と言われました。

  そんな危険なことができるか、一緒に来てくれなくては困る、と言っ
 ても、「バーの名前が分からなければどうにもならん」の一点張り。ア
 タマに来た僕は「日本領事館に訴える」と言ったのですが、「勝手にし
 ろ」と電話を切られてしまいました。

  なんという「旅行者トラブル専門警察」なのだと呆気に取られている
 と、くだんの警察官は「あきらめるか」と聞きます。これだけ屈辱を与
 えられては、もはや絶対に引き下がれない。僕は、「ノー」と答えてベ
 ンチに腰を降ろしました。「頼むから一緒にバーへ行ってくれ」。それ
 から1時間、ひたすら待ちました。警察官は上司となにやら相談し、つ
 いに動いてくれることになりました。警察署についてから2時間が経過
 していました。

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  2人の警察官とともにパトカーに乗り込み、だまされたバーへ戻りま
 した。ドアを開けた瞬間、中にいた人々がいっせいにこちらを見、僕の
 顔を見て凍り付きました。戻ってくるとは思わなかったのだろう、バカ
 ものどもめ。僕は一人一人を指さして、「この人とこの人とこの
 人は現場にいた」と警官に伝えました。「そして僕から金を奪ったのは
 彼だ」と、店主を指差しました。僕をだましてここへ連れてきた例のペ
 テン師は、残念ながら見つかりませんでした。2時間も待たせた警察の
 せいで。

  パトカーに店主を乗せ、打ち合わせてあったらしい別の警察署へ向かいます。
道すがら店主は、「おねがいだから示談にしてくれ」と僕に泣き付きました。
「金は倍、いや3倍にして返す。私は悪い人間ではないのだよ」「人から金をだ
まし取るいい人間がどこにいるのかね」と僕は怒鳴りつけました。ふたつめの警
察署につくとそこには、完璧に英語のできる、さっきまでのやる気のなさそうな
警官とは違う、非常に感じのいい係官が待っていました。

  取り調べがはじまると店主は今度は、つり銭を渡し間違えたのだ、な
 どといいはじめました。ふざけるなと僕が罵倒し、覚えている現場の状
 況を全て供述すると、彼はまたおとなしくなりました。「ミスター、ど
 うしても示談にはしてもらえないかね」「僕はあなたを刑務所にぶちこ
 みたいだけだよ、金なんてどうでもいい」「この程度の金額では刑務所
 には入らないよ」「だが前科はつく。もう同じ旅行者、そして日本人を
 だませなくなる。いくらなんでも前科持ちが同じことをしたら、ただで
 は済まないだろう。」「おお......」「いったい今まで、何人の日本人
 から金を奪ったのだね」「ノーノー、これが初めてだよ......」「でた
 らめを言うのはよしてくれ」。

  2時間以上かけて調書ができあがりました。すると係官が僕を別室に
 呼んでささやきます。「これにサインをすると、君は正式に彼を告訴す
 ることになる。そうするともう示談金は取れないし、明日法
 廷に来て証言しなければならない。つまり、もう一日つぶれることにな
 る。それでもいいかね」。───これを聞いて僕は考え込んでしまいま
 した。金はともかく、こんなことのために貴重な旅行の1日をさらにつ
 ぶされるのか......。

  僕が黙っていると、彼は続けました。「君が頑張ってここまで戦っ
 たおかげで、我々警察は彼の記録をすべて手にいれた。彼はもう充分脅
 えているよ。君がここであきらめても、もう彼が旅行者をだますのは難
 しいと思う。保証はできないが、次に同じことが起きたら、もう我々は
 彼の店を知っているのだから、ね」。───彼は僕のことを思い、示談
 をすすめてくれたのです。

 「そうだろうか」と答えると、彼は僕の肩を叩き、大丈夫だよと笑いま
 した。どっと疲れが襲いかかってきました。OK、そうさせてもらおう。
 自分の力に相応の働きはしたということだろう。そう告げると、彼は僕
 の手を握り、よくやったよとねぎらってくれました。

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  僕が示談に応じると分かると、店主は目を見開いて僕に抱きついてき
 ました。「ミスター、あなたは素晴らしい人だ!」。そして財布をひら
 いていくら欲しいのかと尋ねました。同額でいいと僕はいい、1万円を
 取り戻しました。こいつのおかげで、とんでもない思いをさせられた。

 「ミスター、本当に感謝するよ、明日うちの店に来て好きなだけ飲んで
ください」
「あんなところに行けるわけがないでしょう、僕は殺されるよ」
「ノーノー、お礼をしたいだけですよ、私は悪い人間じゃないのです、
信じてください」
「さっきも言ったようにだね、いい人は金をだまし取ったりしない。
あなたのことは信じられないよ、絶対に」。

  そして2時間かけた調書は目の前で破られ、僕は警察官と握手をし署
 を出て、夜中の道をホテルへ向かいました。

  とんでもない一日だった。最低な一日だった。だけど、とにかく最低
 からいい方向へ一歩戻して終えられた。僕はそう思い、深く息をつきま
 した。それでよしとしよう。疲れた。帰って寝よう。友人が心配して待
 っているであろうホテルに向かって、僕は脚を引きずりながらゆっくり
 と歩いていきました。

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  以上です。アテネに行く方々は、人懐こいお兄さんには気をつけてく
 ださいね (^_^)。誘われて飲みに行くのでも、店は自分で「ここにしよ
 う!」と決めたほうがいいですね。そこが私の最大の失敗でした。愚か
 であった (;_;)。
 ┌───┐
 │サカタ│
 └───┘
 ... (Vancouver, CA)

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