サッカーカナダ代表 − チームとサポーターのハーベスト

 現在 CONCACAF (北中米カリブ) 地区ではワールドカップ予選の 2/3 ラウンドまでが終わり、カナダはすでに敗退している。その敗退の仕方がすさまじく、1勝6敗3分 (5得点20失点) という数字での轟沈となった。こんなカナダが昨年春のゴールドカップでは、いったいどんな顛末でメキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビアに勝てたのだろう。

□ 北中米カリブチャンピオンへの道のり

 カナダにはプロサッカーリーグがないため、代表クラスのほとんどの選手はスコットランドを中心とした欧州リーグでプレイしている。そうした中小のリーグに属する選手たちのプレイをカナダで見る方法はなく、また代表招集期間も充分には取れないため、オジェック監督はチームの熟成に常に苦労しているようだ。

 そんな選手たちをそそくさと集めて乗り込んだ 2000 年ゴールドカップ。カナダは1次リーグ対韓国戦ほかを防戦一方でどうにか乗り切り、同勝ち点によるコイントス対決を制して2次トーナメントに進出する。

 続くメキシコ戦でもカナダの戦い振りは変わらず、ただただ自陣深くに押し込められていた。がメキシコもまたひどい試合振りで、カナダが相手なら楽に逃げ切れると思っているのか、1-0のスコアでパスをぐるぐると回しているだけ。このメキシコにぽっかりと開いた心のスキマを突いて、FWコレズィーンがイージーなヘッドを決め、残り時間わずかなところでカナダが追いついてしまう。さあ大変。

 メキシコはあわてて悔い改め猛攻を開始するが、気持ちの逸るメキシコに対して延長戦カナダのカウンターが一閃。これがオジェック浦和のバイン&福田もかくやというほど完璧に決まり、カナダは大アップセットを達成してしまったのだ。強国の慢心に、バチがあたったのである。

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 カナダの消極的なサッカーは準決勝の対トリニダード・トバゴでも続く。だがドワイト・ヨークを怪我で欠くトバゴの淡白な攻守と、なによりもカナダGKフォレストの大活躍によって、ゴールが生まれないままゲームは進んだ。このフォレストがなにしろシュートを止める止める止める。PKまでも彼が止めてしまい、圧倒的に押されながらも前半を無失点で乗り切るカナダ。

 このフォレストのほとばしる男気に応え、ようやくチームが押し返しを見せた後半の30分、FKからDFワトソンのヘッドがきれいに決まり、ついにカナダは先制してしまう。試合に変化が見えたのはここからだった。カナダ選手たちがすべての局面でキビキビと自信を持ってボールを処理し、チームが組織となってゲームを完璧にコントロールしはじめたのである。

 軽くプレスをかけボールを奪い、相手の詰めは横パス後ろパスで無理なく交わし、手際よくトバコから時間を削り取る。この進化したカナダを上回るだけの力をトバコが見せられずに試合は終わり、カナダは鮮やかな勝利を得た。それは誰も過去に見たことがないほどオーガナイズされ、自信に満ちたカナダのサッカーであった。シンプルなことを自信を持って確実に実行する。これがオジェック監督の目指すサッカーだったのだろう。

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 そして決勝のピッチに現われたチームカナダには、準決勝で得た自信がしっかりと根付いていた。悪漢アスプリージャ率いるコロンビアを相手に消極性をかけらも見せずに守り攻め、がっぷりと組み合って戦うチーム。プレスと確実なつなぎにより組織が機能することで、選手個々の意外な能力の高さも改めて感じさせた。攻撃に耐え、パスを回し、ここぞと勝負を仕掛けるカナダ選手。すばらしい。

 コロンビアは技術的にははるかに優位にありながら、カナダの組織とフォレストの前にこねくりと空回りを繰り返し、壁を破れない。前半終了間際、カナダのキャプテンDFデヴォスがCKから豪快にヘッドを決め先制。後半FWの突破からPKを得てさらに突き放したときには、本当だろうか夢じゃないんですかと、TVの解説をしていた前カナダ監督の声も震えていた。それはカナダを応援するすべての人々の気持ちを表していた。

 終了間際にコロンビアにPKを与えるも、フォレストが準決勝に続きまたもこれをストップ。かくしてカナダはコロンビアにほとんど完勝という内容で、初のサッカー国際タイトルを獲得したのである。

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 この大会とのちのWC予選を併せて考えてみると、カナダはタイトな招集期日ではチームをフィットさせることができず、試合を重ねることによってのみ乗り切っていくチームなのだといえる。先日参加したエジプトでの4か国トーナメントでも、代表の合流期間は秋からの5ヶ月間でなんと大会期間 (4日) だけ。これで初戦エジプトには3-0で完敗しても、中2日のイラン戦にはきちんと勝ってみせたのだから、学習能力に向上が認められる。コンフェデ杯でも初戦日本にはまた苦しめられるだろうが、続くブラジル・カメルーンにはよりよい状態で立ち向かえるはずだ。

 WC予選ではチームが "クリック" せず予想に反した大不振に終わったとはいえ、こうして能動的な、自信を持って組織で戦うカナダというハーベスト (収穫) を1度は採り込んでみせた、オジェック監督とチームへの期待は大きい。

 考えてみればトルシエ監督などは、世界中の代表監督が夢に見てもかなわないほどの境遇が与えられているのである。一度や二度の大敗であんまり悲観的にならないでいただきたい、バチがあたるから。


□ チームカナダのサポーター

 カナダの人々は、I love Canada! と口にすることをためらわない。TVでは毎日 Canadian という銘柄のビールを手に、"I am Canadian!" と人々が叫ぶCMが映し出されている。これが日本やアメリカであればなんだか傲慢でハナにつくわけだが、世界のパワーハウスではないカナダでは愛国心に理屈がないため、しみじみと愛敬とかわいげがある。

 カナダでサッカーの人気がないのは知られていることだが、代表チームに対するサポーターの熱意は、ほかのどの国とも変わらない。カナダサッカーというものの相対的なポジションを考え合わせると、その活発さにはむしろ驚かされる。彼らは海外で地道に戦う選手たちの動向を追うために、インターネットを駆け巡って情報を集め、サポーターサイトで毎日報告し合っている。誰それは今日得点したようだぞでかした、などなど。

 どう考えても調整試合に過ぎない先日のエジプト大会にさえ、タイラー君という青年が父親と共に応援に乗り込んでいた。カナダのスポーツチームの行くところ、必ず現地在住のカナダ人たちが国旗の色に顔を塗り分けワラワラと湧いて出るのだが、タイラー君が母国からエジプトまでやって来たという事実にはチーム一同ショックと感激に満たされ、彼をホテルの食堂に招いたらしい。なにをごちそうしたのかは不明だが、勝利に終わったイラン戦後の、タイラー君の得意げな顔を思い浮かべずにいられない。


□ なぜサッカーなのか

 こうしたサポーターたちは、なぜカナダが誇る才能群を抱えたホッケーではなく、マイナーなサッカーを支援しているのだろう。

 98年長野オリンピック。カナダが生んだ不世出のホッケープレイヤー、ウェイン・グレツキーは、「18のときでも37の今も、カナダを代表して戦うのは本当に誇らしい」と、最初で最後のオリンピック代表に加わる喜びを語った。生活の場は異国のチームにあれど、誰か故郷を思わざる。

 結果として、カナダは彼の力も及ばず準決勝で敗退したのだが、あの冬カナダは一体となってチームカナダをサポートし、敗退の瞬間のグレツキーを捉えた映像は国中をとめどもない涙で凍らせた。

 しかしホッケーというスポーツは、オリンピックという特別なイベントでしか世界と相対する機会がなく (世界選手権は通常Bチームが参加)、コンペティティブなレベルにある国数も限られている。NHL でも、名門チームがいくつもアメリカに売却移転されるなど経済的な理由でカナダ内チームの競争力は低下し、94年以降スタンレーカップ・ファイナルから遠ざかっている。ホッケーの求心力が国中を揺るがす場面は、実は少ないのだ。

 4年前のサッカーWC予選、カナダ−エルサルバドルを見に行った会場でたまたまアウェイ席に座り、周り中をサルバドル移民に囲まれ、彼らの歌う誇らかな国歌を聴いたことをぼくは忘れられない。バンクーバーにこんなにサルバドル移民がいたのか。そしてかくもはるかなカナダに住みながら、彼らは母国をこれほど思っているのかと、ぼくの胸は熱くなった。

 自分たちが愛する国の、その代表をサポートする喜び。勝利の甘さ、敗戦の苦さ。常に世界とつながっているサッカーには、成り立ちとしてこうした思いがいつでもパックされている。"I am Canadian!" の素朴な愛情を持つ人々がそこに気付いたとき、ホッケーでは満たされないものが弾けても不思議はない。カナダサポーターたちはきっと、その花の匂いを嗅ぎとっているのだろう。そしてその花が国全体に開くことが、彼らの求むハーベストにつながる。


□ For the Love of Your Country

 ゴールドカップ決勝でフォレストがPKを止めた直後、PK判定に強く抗議したオジェック監督に退場が命ぜられた。彼はチームの皆にビッグなスマイルを見せ、このままでいい、我々は勝ったのだと伝えてベンチを後に歩き始める。

 そのとき、人のまばらなスタンドを1人の観客が駆け下りていった。彼はオジェック監督に追いすがり、その手を握り締めて、ちぎれるほどにシェイクしたのである。それは初めてチャンピオンとなる自チームを目前にし、もうどうしていいのか分からない、カナダのサポーターだったのだ。

 あれはエジプトに行ったタイラー君だったのかもしれない。あるいは彼とネットで話し合っている誰かだったのかもしれない。彼やその仲間たちは今月末に新潟に飛び、顔を赤白に塗り分け旗を振っているのかもしれない。For the love of your country。彼らは結果がどうあろうとも、いつまでも、夢を追いかけることだろう。

 カナダの代表選手たちにとって、欧州のサッカーシーンで「ジョークだと思われている (FWペスキソリド)」CONCACAF 地区の代表に戻ることで、プラスになることは現状なにもない。実際代表への招集を固辞した選手もいれば、第二国籍を選んでカナダ代表から永久に去ってしまった選手さえいる。

 だが今回のコンフェデ杯にも、所属チームから参加を渋られ苦しみながら、彼らのほとんどがチームカナダに帰ってくる。For the love of your country。カナダを代表して戦う誇りという、グレツキーと同じ言葉を胸に抱いて。

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坂田知久 (サカタ トモヒサ)
カナダBC州在住、翻訳業
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(スポナビ・コンフェデレーションズカップ特集に掲載されたコラム原稿)
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