【読書】積ん読の日々

Subject: 今月のオンライン読書感想文
To: 電子本ML
From: Tomohisa Sakata
Date: Thu, 15 Feb 2001 22:00:00 -0800
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■□ 今月のオンライン読書感想文 / サカタ@バンクーバー

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冬佳彰氏『泥と雪』
http://member.nifty.ne.jp/swam/index.html
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ポシブル堂にも短編集が3本登録されている氏の、最新長編です。江戸
時代、殺人を見てしまった乞食の少年が、下手人の一派に追われる。氏
の短編集のどの作品にも感じられる、弱く踏みつけにされる者たちへの
シンパシーが、この物語に結晶しています。少年を救おうともがく者た
ちが、その少年の痕跡を追ううちに、まだ見ぬ彼への思いを募らせてい
く。その同じ気持ちが読む側の胸にもまた打ち込まれる。彼らと読む僕
の思いがほとんど狂いなく重なった瞬間に、物語によってグイっと突き
動かされる。そういう幸福な読書体験を、この一編の中で何度も味わい
ました。江戸の闇に棲むディック・フランシスかと思いました。

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イピ氏『古代のナガ』
http://www2.117.ne.jp/~windfall/download1.htm
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『ナガ』は日本の平安時代、邪ななにかが京の都に流れ込むのを防ぐた
めに、力を合わせる鬼と修験者と少年の物語です。ちはやふる...(じゃ
ないやなんだっけ・無教養 ^_^;) なその時代の光や風や山の色を思い浮
かべながら、すがすがしい気持ちで読み進めました。出てくる人々や鬼
のそれぞれに実在感のある魅力を感じられるのは、作者の人柄を反映し
ているのでしょう。

ファンタジーが好きな人が書くものと、ファンタジックな感性を持つ人
が書くものは、微妙に肌合いが違うのだろうなと僕は思いました。後者
であろう作者の筆によって、この物語ではどの場面にも自然なちからが
働いており、それが心地よい。たとえば僕たちが夢の中で空を飛ぶとき
にそのメカニズムを疑うことがないように、この物語で起きる様々なこ
とが自然なことなのです。

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同じくイピ氏『宙導師候補生イピ・ユーム』
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『人の思い出が重なり合って自分の記憶が本当に正しいのかどうか確か
ではない。しかし、それは問題ではない。どれもが同じような懐かしさ
をもって淡く輝いており、たぶん、そのいずれもが儂の過去と通じてい
るのだろう』

記憶と記録と歴史を蓄える異世界の学術都市から、地球の中世ヨーロッ
パへ研究派遣される書生たちの物語。上に引いたある古老のことばが、
この作者イピ氏の物語の風味をよく表しています。読者はイピ氏の中を
流れる、淡く輝く異なる世界を味わいます。

この物語の面白さの一つに、学術都市をつかさどるコンピュータらしき
ものがあります。あらゆる世界のあらゆる知識を集積する全能のマシン。
そこから分岐する個人用端末のインターフェイスが面白い。そいつは小
鬼となっていて、会話形式でコマンドを実行させるのですが、その会話
の語彙やスタイルの調整が悪かったり、あるいは小鬼=交換可能なシェ
ル自体の作りが悪かったりすると、不効率で使い物にならないところが
現代地球と同じで楽しいわけです。

このメカニズムが物語のある軸になって、全体の整合感を形づくります。
人物たちの言葉を含めてすべてに通ずる心地よい整合感が、この作者の
持つ魅力だと思います。

(以上2作は「ポーラスター/Online小説レビューページ」
http://plaza8.mbn.or.jp/~Polestar/archive.html
で教えてもらいました。)

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たなべひろあき氏『京成・博物館動物園駅案内』
『ほくほく線に進路を取れ! 』『機関庫 Vol.01 横川 』
from ポシブル堂
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なんだやっぱり「鉄ちゃん」なんじゃないかと笑いながら読みました。
人の趣味の話を聞くのは楽しいものであります。僕のような門外漢には
実際はわからないながら、こうした旅する鉄ちゃんだとか史跡めぐりを
する方々だとかがたくさん活動していそうな日本という国は、どこかお
とぎ話のようにのどかな部分が残っているなあとうれしくなります。
 ┌───┐
 │サカタ│
 └───┘

Subject: 『百円文豪』というページ From: Tomohisa Sakata To: 電子本ML Date: Sat, 24 Feb 2001 02:20:27 -0800 Message-Id: <200102241020.TAA16718@ml01.geocities.co.jp> --------   ■□ カナダのサカタです 【今週読んだ本の感想】  電子本読者の間では周知のサイトなのかもしれませんが、『百円文豪』とい うページを見つけてその登録作品をいろいろと読んでいます。  このページは CGI による自動投稿システムらしく、掲載作品の出来や傾向 やジャンルはどえらくバラエティに富んでいるのですが(テキストのフォーマッ トもバラバラ)、苦労していくつかよいものを見つけられました。ちなみに読 者によるランキング付けもされているのですが、上位 30 位を読んで「このラ ンキングは少しも当てにならぬ!」と私は思いました。 ==== ◆ ========== ◆ ========== ◆ ===== ブレンドコーヒー(焼き魚定食付き)- ランチハウス氏 大学の研究室という、時間が止まりかけている世界を明るく気の抜けたタッチ で描いていて、よかったです。普通こういう物語を描くと、なにかショッキン グな事件や奇矯な人物を挿入して表現の可能性を無闇に広げようとするものだ ろうと思いますが、そうしていないところが非常にナイス。 ---------------------- 芸人コオキチの金もうけ大作戦!- 花見優作氏 タイトルと前振りにインパクトがありすぎて拒否反応を起こす人が多いと思い ますが、読み始めてみるとライター花見氏が見事に活字で再現している関西弁 の心地よさに運ばれ、とある芸人が哲学を持って行っている副業(ペット犬仲 買)の話を存分に楽しめます。完璧に実用書の体裁になっているんですが、あ あこういう面白い人がネットで頑張っているんだなあと率直に楽しいのでした。 ---------------------- 越前ぶらり歴史旅 - 雨神音矢氏 筆者のホームページによると、プロの歴史作家である様子。それはともあれ織 田信長の足跡をたどるこの旅行記は、鉄ちゃんの旅行記が楽しいように、誰に とっても楽しめるのではないでしょうか。平家の末裔と出会うくだりは、読ん でいてある種の興奮を感じました。 ---------------------- ケヴィン - 伊藤知子氏 アメリカの田舎町に引っ越してきた日本人少年が、不思議な少年と友だちにな り、彼らを中心に学校でいろいろな事件が起きる話。作者は米国に実際に住ん でいる(いた)人なんじゃないかと思います。外国人が出てくる日本小説を読 んでいると、「こういう言い回しは日本語でしかできないのではないか」と感 じられる会話部分が非常に多いのですが、この小説にはそういう不自然さが感 じられずナイスでした。 物語は二人の少年のふれあいを描いて、快調なテンポで進んでいきます。読後 に僕の胸に残ったその気持ちは、昔大島弓子を読んだときのような感動でした。 ......しかしカナダでは日本と同じく銃が手に入らないのですが、ガンのある 国はこんな感じなのかなあ。うーむ(注:別に血みどろな物語ではない)。  ┌───┐  │サカタ│  └───┘ (注: 上記作品ページはなぜか現在発見不能)
Subject: Re: 電子本を売るためには。 From: Tomohisa Sakata To: 電子本ML Date: Sun, 11 Mar 2001 03:39:18 -0800 Thanks to: 大山達人 san --------   ■□ カナダのサカタと申します  僕の母親も、先日からパソコン教室に通ってるんだそうです。「あんた、あ たしがパソコンできるようになったら、すぐにメールでビデオを送ってよね」。 うあ.....。モデム速度とかメガバイトとかそういう話をしても、通じるわけ がない。僕は海の彼方に住んでいるのでこの母親を援助することはかなわない のですが、大山さんのお母さんの記録を追って、我が母の進捗ぶりをバーチャ ル体験させていただきます。 ==== ◆ ========== ◆ ========== ◆ ===== /~~ In < [PBC_ml] (ハハパソ番外編)電子本を売るためには。> , 大山達人 san wrote: > ポイントをついたものを書いて、電子本をポシブル堂メンバー以外の > 人々にたくさん売ろうと思っています。一冊売れてしまえば、相乗効 > 果で他の本も売れるような気がするのですが。。。素人の人が書いた > 電子本をたくさん売るということを、今しておかないと、後々公開す > ることになるような気がします。  いち電子本読者として、たなべさんの「だれが本を殺すのか」という記事を 読んでから考えていることがあります。電子本、それもダウンロード版に、な ぜ紙の本と同じような値段がついているのでしょう。「素人の本だから安くせ よ」などという馬鹿げたことは思いませんが、出版の素人から見ると、製本と 流通コストがほとんどゼロに近ければ紙の本よりも安く売れそうに思えます。 作者には、版元や編集者を渦に巻き込み動かす際の苦労および製本配本のコス トが(ほとんど)ないという大きなメリットがあるのに、読むほうには電子本 であることのメリットは特に見当たらないのです。この状況で読者に電子メディ アを選ばせるには、なにかがスペシャルでなければ難しい。これは作者ではな い読者ゆえの考え方かもしれませんが。  版元や編集者を動かす苦労および苦悩というのはなんの表現をする場合にも 昔は付き物で、僕も自分がやっていた音楽でずいぶん経験しましたが、徐々に それが薄れてインディペンデントで安い CD を作り人に聴いてもらうなんてこ とができるようになっています。自分が今 20 代の現役バンドマンなら、絶対 にネットと MP3 を利用して、より多くの人に聴いてもらえるよう努力すると 思います。このネットの世界が開きつつあるものは、本当に大きい。「素人」 というか、『送り手』が中間でカットされずに『受け手』に表現を届けること ができることの素晴らしさを、両方の側からうまく育てていけたらいいなあと 思います。『ハハパソ本』が、本当に2万冊売れてほしいのです。  ┌───┐  │サカタ│  └───┘
Subject: Re: 電子本を売るためには。 From: Tomo Sakata Date: Sun, 11 Mar 2001 11:43:12 -0800 Thanks to: 大山達人 san --------   ■□ カナダのサカタです /~~ (on 2001/03/11 07:15) 大山達人 wrote: >> 流通コストがほとんどゼロに近ければ紙の本よりも安く売れそうに思えます。 > > 本当にそう思います。 > しかし、電子本のメリットが安いだけ、というのもさびしい気がしま > す。  いえ、そうではないのですよ。電子本のメリットを受けるのが主に送り手だ け、という状況になってしまってはつまらないということなのです。  僕たちがいまパッケージソフトウェアよりもオンラインウェアを好んで使う のは、作者と利用者が直接つながることができるということと、販売上のコス ト(作者が版元を動かすための苦労を含む)がかからないという2つの大きな メリットが、作者と利用者の双方に等しくはたらいているからだと思います。 こうして、送り手と受け手が共にニッコリなものがいちばんですよね。  ┌───┐  │サカタ│  └───┘
いまさら『泥と雪』の感想追加 To: 冬佳彰氏掲示版 サカタ@バンクーバー 2001/02/14 (水) 17:29 今日一つ仕事を終えた褒美にと、さきほどさっそく『紅の闇』を読みました。 僕が読んだ冬作品中でおそらく最も温かいシーンが多かった『破れ傘』の直後 だったもので、落差が激しかったですが興味深く、また面白かったです。  「人公への共感によってノってゆく」と書かれてますが、僕が 21 世紀最高 の逸品(気が早い)と思った『泥と雪』には、まさしくその思いが埋め込まれ ていましたね。物語の中のある人物の胸のうちと、読む側のこちらの胸がほと んど狂いなく重なる瞬間があって、だからこそグイっとその胸が動かされる。 あの物語では多くの人物と、僕の胸が重なりました。 話の筋をばらすことになってはいけないので、あまりここで細部に対するああ だこうだは書かない方がいいかと思っているのですが、『泥と雪』の少年を舟 饅頭が救ったあの場面は、普通であればそこでふっと読者が我に返ってしまう 類のものですよね。それがまったくそうならなかったのは、(そうだよ、それ くらいのことがなければあんまりだよ)とすかさず感じるまでに、僕の胸が掴 まれていたからです。また読み返したくなってきてしまいました。
『いいんじゃない?みんなの邪魔にならなければ。』感想 2001/5/26(SAT)04:50:47 - サカタ@カナダ [電子小説遅延型読者] 表題は、同じランチハウス氏『ブレンドコーヒー(焼き魚定食付き)』の雪の 下さんもつぶやきそうな言葉ですが、この作品の「女の子」に対しては、読ん でいる際中雪の下さんほど鮮やかな像が結べませんでした。とはいえ「女の子」 自身が、たとえばある漢字がなぜその漢字なのかときどき分からなくなるよう な、そんな時間とそういう商店街の中を漂っているわけで、それで当然なのか。 この女の子と相対していくのは、幼児が「なぜ? ホワイ?」と問い続けるの に答えていくようなもので、最後には「それは空が青いからよ」などといった ところに空気がぷしゅっと抜けてコミュニケーションは終わってしまう。 忙しい現代人にはその程度の対応しかしようがないわけですが、ところがどっ こい―――「その質問に限っては何とか答えられそうだな。おじさんは八百屋 だけどね」と、八百屋さんは雄々しくいうのです。ここから始まる最後のシー ンで、女の子と八百屋さんと商店街に、さーっと実用的な生命がみなぎってい くのを感じました。心地よし :-)。またいつか次作が読めることを楽しみにし ています、感想文は超遅れても。 ---------------------- 作家志望 A 氏がこの作品について、 『全文を読むには、やや長い文章であるにも関わらず、不親切で高慢な作品紹 介である。読者や評価員に「読んでいただく」のか「読ませてあげてる」のか、 素人(であれば)の姿勢としてはよろしくないと思う。』 と述べておられますが、この作品についていったい作者が、本文引用以上のな にをもって紹介できるだろうと考えています。なにを語っても蛇足になってし まいそうで、やっぱり引用しか書けないのは無理もない。おそらく『不親切』 はOKであっても、『高慢』は的外れでしょう。『「読んでいただく」のか 「読ませてあげてる」のか』のどちらでもない、「読んでほしい」というのが、 ここに作品を出している人々の本当の気持ちなのではないかと想像します。 『素人の姿勢』などということを言い出しては、なにもかもが馬鹿ばかしくなっ てしまうのです。プロでなければ自作の作品解説を懇切ていねいに考え添付し なければならないのであれば、プロ免許証を提示していない「作家志望」A 氏 の添削指導にも価値がなくなるわけです。そんなわけがないでしょう、自明の 理 :-)。

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