巨大格闘技ハナシ
To: 柔道家MHくん
Subject: 巨大格闘技ハナシ
From: Tomohisa Sakata
Date: Tue, 15 Jul 1997 13:54:42 -0700


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┃ 大格闘技観戦つれづれの記 ┃
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  先週ビデオが届きました。毎度どうもありがとうー。じっくり観戦した
 けれど、やっぱり格闘技は面白いね。それなのに、ビデオをVCRでかけ
 たとたんにMが言うのさ。───「プロレス〜? 知らないの? こんな
 の real じゃないのよ」。───き・きみね、格闘を見て四半世紀のこの
 私に向かって、そういうあまりにも初歩的なことを言わないでもらいたい ^_^;)。

  ともあれ男のロマンを分からないヒトは無視して、小川と橋本の試合を
 まず観戦。これは想像してたよりもずっと面白かったです。小川のつたな
 い立ち業(プロレス的展開)での戦い方と、相手を倒して柔道の寝業に入
 るときのすばらしい動きのコントラストが楽しい。寝業なら俺は世界の誰
 にも負けないのだという信念が、血管の隅々まで流れて体を滑らかに動か
 しているかのようで、やや感動したよ(私はそういう「昔取ったキネヅカ
 もの」に非常に弱い :-)。相手の技を受けて試合を盛り上げる感覚とかも
 意外に分かってるようだし、新日でうまくやっていけそう。


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  しかし、もともと期待してないとはいえその他の新日本プロレスの試合
 がつまらないなあ。前にも言ったと思うけど、あの出しゃばりなめがねの
 アナウンサーがあれこれと口で説明することが、新日本プロレスのすべて
 になってしまっている。あれはいかんよ、あのアナウンサーが新日本プロ
 レスをつまらなくしている元凶なのだと、誰か気付いてほしい。

  選手がなにかするたびに、それがなにを意味するのかが彼によって怒涛
 のごとく説明されることのつまらなさに、僕はうんざりするんだよね。具
 体的には、彼が「これは武藤が nWo に参戦するという意味です!」とか叫
 ぶタイミングがあまりにも早すぎ、そしてその口調があまりにも断定的す
 ぎるわけ。プロレスで起こることは、ファンによって鑑賞され解釈される
 ことでひとつのサイクルが完了すると僕は思うんだけど、見ている人がな
 にかを感じるよりも前にあのアナウンサーの絶叫が入っちゃってると思う。
 その不自然さが、どうしたって「ああ、新日のシナリオにそう書いてある
 のか」という味気無さを感じさせずにおかないと思うのです。私は別にプ
 ロレスを批判的に見てるわけじゃないのに。

  こうして、少なくともTVでは、プロレスファンの想像力や鑑賞力が否
 定されていると思うんだよね。僕らは目の前で起きてることに自律して興
 奮し驚きたいのに、こうなってるんだからこう感動しなさいと強制されて
 いる。レスラーたちが体を張って表現していることが、たかがアナウンサー
 の軽い飾り言葉で気安く消費されていくことに、どうして選手たちは怒ら
 ないのだろう。放送を自分で見たりはしてないのかなあ。

  ともあれ、猪木が小川を連れてきてやろうとしていることはきっと、こ
 の思考停止ゲームをぶち壊して、目で見るだけで気持ちのいいものを取り
 戻そうという試みだよね。成功するかどうかは分からないけれど、小川が
 見せた輝きから期待はできるかも。リングサイドでおそろしい形相で見守っ
 ていた猪木はやはりかっこよかった。「また猪木デスカ」とポスト猪木世
 代のMHくんは笑うかもしれないけど (笑)、猪木が力尽きる前にこのプロ
 レス状況をなんとかしてくれないと、元ファンとしては悔いが残って仕方
 がないのです。


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  それからK1は、MHくんもマンネリと言っていたけど、もうフグがチャ
 ンピオンを獲った時点でスポーツとしてはほとんど区切りがついてしまっ
 てるんじゃないだろうか。それを芸能的興行としてこうしてガンガンと盛
 り上げつづけて行くということ自体が無理なんだと思うよ。

  今回フグがあっけなく負けていたけど、こんなガチガチの殴り合いを毎
 度毎度(毎月?)やってたら、やってるほうはモーティベーションがもた
 ないよね。精神的肉体的ダメージだって蓄積するだろうし。いつだって腕
 を振り回していればOKなベルナルドなどの腕力派は、ガンガンやってい
 れば別に痛くもないわけでハッピーなんだろうけどさ。

  K1はいつだってそうだと思うけど、現時点で客が入って視聴率が取れ
 ればいいという完全消費型のブッキングなんだよね。体格的に不利なフグ
 が前回ああいうすごい戦いをしてチャンピオンを獲ったということに、別
 に意味はないのだとそろばんをご和算にするようなカードを組んでいると
 思う。ある程度以上パンチが強い相手と当たれば、今回フグがあっけなく
 負けるのは見えていたような気がする。彼にとってはK1での格闘がルー
 ティンになってしまっているじゃないだろうか。これでは勝てないよ、興
 行の都合に合わせて極限まで自分を盛り上げるなんて、誰にだってできな
 いよね。リングに上がったフグの顔を見て、気の毒だとしか思えなかった。

  彼のようないい選手がいい試合をできないということに、K1という興
 行団体の空しさ、石井館長という人の格闘技と遊離した経営センスを感じ
 ます。リングスはその点よくできているよ。やる気をなくしてしまってる
 のは、もう誰にも勝てなくなってしまったというDフライだけだと思うか
 ら。


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  ビデオを見ていろいろ情報が欲しくなりインターネットで格闘技系の書
 き込みを探して読んでみたら、なかなか興味深いものがたくさん見つかり
 ました。現在はファンの間で「グラウンドで顔面パンチありのバーリトゥー
 ド(VT)が最強だ」という風潮が強く、プロレスを除く格闘技界全体が
 そのファンの気持ち、つまり観客動員によって漂流し始めているらしいね。

  私は選手が怪我をするところを見たくはないので、前にも言ったとおり
 VTを見る気はしないんだけど(佐山の弟子のエンセン井上といういい選
 手がこないだ戦って、鼻と目をかなり傷めたらしい)、リングスやパンク
 ラスなど「最強」を目指す団体は論理上、強いことが明らかなVTを無視
 できないというところなんだね。経営にも明らかに響いてきているという
 から、本当にきびしい世界。ファンが最強を求める気持ちだけでひとつの
 産業が揺らいでしまうんだから、日本はほんとに先鋭的な格闘技王国だわ。

  ファンとしては「前田/猪木にグレイシーを倒してほしい」とどうして
 も考えてしまうけど (笑)、でもやっぱり前田がVTでグレイシーと殴り殴
 られするのを見たくはないなあ。

  見たことないんだけどパンクラス・ルール(リングス・ルール+グラウ
 ンドでの掌底あり)がファンが鑑賞できる限度だと思う。前田は掌底でも
 グラウンド状態での頭への打撃は危険すぎる(目が危ないとか)と考えて
 いて、パンクラス・ルールにも賛同してないらしいけど。

 ※ それにパンクラスやシューティングは顔面掌底に対する警戒からグラ
    ウンドで双方手詰まりの試合になることが多く、客が離れているんだっ
    て。

  通は、リングス・ルールに「投げでのポイント」制とグラウンドでのボ
 ディパンチを加えれば、危険を増やさずして柔道・レスリング───つま
 り脚間接技の少なさで現在リングスでは活躍しにくい格闘技の選手がより
 力を発揮できるんじゃないかとなどとリングスに訴えているそうです。『
 相手をうまく倒すことでポイントを得、ボディを打つことでガードを崩し
 て上体への締め技に入りエスケープ・ポイントを加算していく』という戦
 い方ができるから。グラウンドでボディ打ちを使えれば打撃系も今のよう
 な「寝たら負け」状態を抜け出す可能性もあるしね。もしかしたらタイソ
 ンだって戦えるかもしれない (笑)。柔道家のMHくんはどう思います
 か :-)?

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  そういうことを考えていると夢があるよね。それが日本の格闘技のいい
 ところなんだと思います。VTはやっぱり、いかに馬乗りされ殴られるこ
 とを避けるか以外に進む道はないので、いろんな格闘技の選手が力を見せ
 てくれるという楽しさはないと思うな。既存の格闘技は、最初からVTだ
 けを目指しているブラジリアン柔術に結局勝ち目はないもんね。僕はタイ
 ソンやヘビー級ボクサーたちが世界最強だとは別に思わないし、同じよう
 にVTはVTでしかないと思います。

  僕はファンなのでどうしてもリングスから日本格闘技を眺めた場合とい
 うハナシになっちゃうんだけど (笑)、このようにリングス・ルールがより
 よくなることが一番未来につながるだろうなと考えるわけです。そうすれ
 ばVTの選手がリングスでチャンピオンを獲ることだって十分に可能なわ
 けで───現にいまリングスにグレイシーが出たって、山本にならおそら
 くグラウンドで勝てるでしょ───、要はルール改善を含めてどうやって
 離れかけてるファンの気持ちを掴むかということが勝負。その延長上にブ
 ラジリアン柔術などとの戦いを実現できるかどうかということに、日本格
 闘技の未来はかかってるように思うのであります。

  ギャラやルールの問題で実現できないなら、それはしょうがないしね(
 グレイシーのギャラはすごいらしい)。猪木が金銭的・ルール的に無理し
 てアリと戦ったほどのバリューは、現在も将来もグレイシー柔術にはない
 でしょう。


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  そんなふうに、おかげさまで1週間ほど格闘技のことを延々と考えてお
 りました、あはは (^o^)。Number など雑誌も面白かったです、どうもあり
 がとう。

  Mが先週からUBCの日本語コースを始めました。やっぱり見ていると、
 日本語は難しいわ。漢字の読み書きがなにしろガンだよねー、かなり進歩
 しても学習者が日本語の本を読むことは難しいわけだから。実際に日本語
 を読み書きできる外国人も多いんだから、やればできるのだろうけど、端
 で見ていると絶望的な気分になります。僕ならやめてしまうな (笑)。でも
 Mは負けず嫌いなのか、非常に頑張っております。

  こちらはその他変わりないです。実家に帰れてよかったね。またKOちゃ
 んに会いづらくなったのは残念だけど、やっぱり築地に比べたら天国なの
 では (笑)。お父さんが健康を取り戻すことを祈ります。

  僕は9月に弟が結婚することになり、久し振りに日本へ行くことになり
 ました。うまく日程が取れて、MHくんたちとも会えたらいいね。そ
 れではまた、お互いに元気で。どうもありがとう。


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